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釧路地方裁判所 昭和52年(行ウ)5号 判決

原告(選定当事者) 納谷興平

補助参加人 有限会社ハニーハウス

被告 北見税務署長 札幌国税局長

主文

一  原告の主位的請求2の(一)、(二)、第二位的請求1及び2の(二)並びに第三位的請求1、2の(一)、(二)及び3に係る訴えをいずれも却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用のうち参加によつて生じた部分は補助参加人の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実

別紙のとおり

理由

第一主位的請求1及び第二位的請求1に対する判断

一  請求原因一の事実(本件課税の経過)は当事者間に争いがない。

二  原告は、主位的請求1により本件更正処分及び賦課決定処分(以下両処分を併せて「本件課税処分」という。)の取消しを求め、第二位的請求1により予備的にその無効確認を求めているところ、課税処分の無効確認訴訟は、同じく課税処分の違法を問題とする取消訴訟の関係からみると、不服申立前置(国税通則法一一五条一項)及び出訴期間(行政事件訴訟法一四条)の制約が遵守できなかつたため取消訴訟を提起することができなくなつた場合の例外的補充的な訴訟であるから、主位的に課税処分の取消しを求め、予備的にその無効確認を求める場合において、右主位的請求につき前記の不服申立前置及び出訴期間の制約が遵守されているときは、右予備的請求は無用のものであつて、訴えの利益がないと解するのが相当である。してみると、本件において主位的請求1につき、不服申立前置の制約が遵守されていることは前記一の当事者間に争いのない事実から明らかであり、出訴期間が遵守されていることも当裁判所に顕著であるから、第二位的請求1は訴えの利益を欠き不適法というべきである。

三  そこで、主位的請求1において原告が主張する違法事由が本件更正処分に存するか否かについて判断する。

1  所得の帰属について

(一) 被告署長の本案についての主張一の1の事実(大次郎の昭和四五年分総所得金額の内訳)のうち、不動産所得については当事者間に争いがない。

(二) 原告は、事業所得の帰属につき争うので、判断するに、権利能力なき社団といいうるためには、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理団体としての主要な点が確定していることを要する(最高裁判所昭和三九年一〇月一五日判決、民集一八巻八号一六七一頁)ところ、成立に争いのない甲第一二号証の一、二、第五〇号証、第五一号証の一、二、乙第九、一〇号証、第一六号証の一、二(原本の存在も含む。)、第一七ないし第二〇号証(第一九号証については原本の存在も含む。また、第一九、二〇号証については後記措信しない部分を除く。)、証人佐藤彬の証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証の一、二、証人山吹智司の証言により真正に成立したものと認められる乙第一三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五ないし第七号証、第九号証、第一一号証、第一三号証の一ないし三、第一九号証、証人佐藤彬、同山吹智司の各証言、原告本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、協力会の実情は次のとおりであつたと認められる。

(1) 協力会は、原告が考案した後記の仕組み(システム)に基づき、大次郎及び原告親子が中心となつて昭和四五年九月下旬ころからMB相互協力会(MBとはmoney buildingの省略である。)の名称で開始した金銭配当組織である。そして、大次郎は、右の開始に当たり、自ら原告、知人らとともに会員となつて後輩会員の募集を行う一方、開始間もない同年一〇月六日、当時北見市清見町にあつた原告宅において、原告、知人ら合計八名の会員で発起人会なる会合を開き、その席上、協力会の名称、目的、事業内容、組織等を定めた規約を制定し、協力会を主宰運営するため自己を協力会の会長に選任し、また、後記のとおり、会員が協力会に入会時登録手数料として納入する五、〇〇〇円のうち二、〇〇〇円を会員が利用できる施設等の建設資金として積み立て、一、〇〇〇円を協力会の仕組みを考案した原告にシステム料(専用実施権料)として支払い、残る二、〇〇〇円を人件費その他の諸経費に当てることを取り決めた。

(2) 協力会の仕組みは、入会を希望する者が先輩会員二名に協力金として各五、〇〇〇円及び協力会本部に登録手数料として五、〇〇〇円をそれぞれ送金することによつて会員となつたうえ、新たに入会を希望する者二名を勧誘入会させるという方法で、段階的に二の倍数をもつて無限に会員を増加させるもので、会員は、順次第七順位から第一順位まで昇格することとされ、その過程で協力会本部の指名した第七順位の後輩会員から五、〇〇〇円の送金を受けることによつて、第六順位及び第四順位になつたとき各一万円を、第三順位になつたとき二万円を、第二順位になつたとき四万円を、第一順位になつたとき八万円を受け取り、以上延べ三二名の後輩会員から各五、〇〇〇円ずつ合計一六万円を受け取つた段階で自動的に会員資格を喪失するとされていた(なお、右協力会の仕組みは、いわゆるねずみ講による社会的な害悪を防止するために制定された「無限連鎖講の防止に関する法律」(昭和五三年一一月一一日法律第一〇一号)三条によりその開設等が禁止される無限連鎖講(その定義については同法二条参照)に該当するものといわなければならない。もつとも、前記の協力会規約二条によると、協力会は、相互協力を精神的基盤として会員相互の経済的繁栄と福祉社会の建設を目的とするとされ、規約四条には協力会の行うとする五つの事業内容が掲げられていて、あたかも協力会は公益的事業を行うことを主目的にしているかのようである。しかし、右事業内容のうち実際に行われたものは、昭和四五年分の登録手数料による収入(ただし、後記の保険については昭和四六年分の登録手数料による収入も含む。)の中から、社会福祉事業等へ寄付金を送り、会員利用施設建設基金として四〇〇万円、JMS共済会なる名称の交通事故傷害共済制度出資金として二〇〇万円を積み立てたほか、各会員に交通傷害保険を掛けたに止まる。しかも、右に行われた寄付金の総額は五五万円で、昭和四五年分の登録手数料による収入金額一、六八一万円の僅か三パーセント余りにすぎないし、積立金も後記(7)のとおりいつの間にか取り崩されて費消されてしまつており、また交通傷害保険もその内容は会員にとつて格別特典といえる程のものではないから、右の諸事実をもつて協力会がいわゆるねずみ講ではなく、公益的事業を行うことを主目的としていたとみることはできないものというべきである。)。

(3) ところで、協力会の前記規約は、その制定当時既に九〇名余の会員があつたのに、大次郎ら八名の一部会員だけで制定されたものであり、その制定においても、右規約が他会員に示され、その了解ないし同意を得たという事実は全くない。したがつて、右規約は、会員の多数意思に基づいて制定されたものではなく、ほとんどの会員は、規約の存在すら認識していなかつたものとみられる。

(4) 次に、協力会においては、社団にとつて最高の意思決定機関である総会に関し、規約一二条が、総会は会長が必要と認めた時開催し、会長がこれを招集すると規定しているけれども、規約上他に総会の招集手続、決議事項、方法を定めた規定はない。そうすると、総会の招集開催は会長の専権に属し、会員の側から総会の招集を請求してその多数意思を形成するということは全くできないうえ、会長が必要と認めて総会を招集開催したとしても、その議事に混乱を来たすことは明らかであつて、そのためか実際上も総会が招集開催されたことは一度もない。なお、規約一三条によると、通常の総会に代わるものとして、毎年一回会長の発議により通信総会なるものを行うこととされているが、これとてもその実施は会長の発議にかかつているうえ、規約一四条によると、その議事手続は会員に対する通信により行い、表決に関する返信がない者は議事を承認しているものとみなされることになつているから、構成員の具体的な多数意思をその決議に反映させるという通常の総会の議事手続とは全く異質なものといわなければならない。しかも、右通信総会も昭和四六年三月に協力会の昭和四五年度収支決算について一回行われただけである(もつとも、この通信総会も協力会の事業報告の内容等と一緒に右の収支決算の内容及びその内容について異議のある会員は昭和四六年四月一〇日までに事務局へ書面にて申し出て欲しい旨を印刷したJMS情報なる広報紙を会員に送達して行われたにすぎないから、その送達を受けた会員らがそれをもつて通常の総会に代わるものと認識していたかは甚だ疑わしい。)。

(5) また、協力会には、規約一六条に基づき、会員の中から会長である大次郎のほか、専務理事一名(原告が就任していた。)、理事五名、監事二名(うち一名は、大次郎の妻であり、本件選定者である納谷カツが就任していた。)が置かれ役員会を構成していたから、形式的には社団の要件たる代表者及び執行機関を有していたことになる。しかしながら、右役員の選任手続については、規約一七条が、右役員のうち会長は設立発起人会で選出され、その他の役員は会長が委嘱するとのみ規定しているから、会員は、総会においてその多数意思に基づき会長その他の役員を選任する機会を全く有しないことになる。しかも、右に規定される設立発起人会は、本来協力会が社団として設立されれば、当然にその任務を終わつて消滅ないし解散する筈のものであるから、その後会長に会員資格の喪失、任期満了(規約一八条によると一〇年とされている。)、死亡等の事由が生じた場合、新たな会長を選任することができなくなる事態を招くことは明白であつて、事実協力会において大次郎が死亡した昭和四九年一月一七日以降会長は全く選任されていない。そして、以上の選任手続の不備欠缺に加えて、もともと大次郎及び原告親子を除いたその他の役員は、協力会の運営、財産管理を大次郎らに一任してこれに関与することがほとんどなく(役員会も昭和四六年三月九日に一回協力会の昭和四五年度事業報告、決算報告を形式的に承認するため開かれただけで、他に開催された形跡は全く窺われない。)、全く名目的な存在にしかすぎなかつた。

(6) また、協力会は、昭和四五年一二月末現在で、三、三六二名の会員を擁していたが、前記のとおり、ほとんどの会員は、協力会の意思決定や業務執行に関与できる機会を有せず、専ら利殖目的のみで協力会に入会していたものである。そのため、第一相互研究所の名称のもとに熊本で創設運営されていたねずみ講の社会的弊害が新聞の報道等によつて問題にされ始めた昭和四六年七月ころから協力会への入会者は全く途絶えるに至り、それ以降会長である大次郎の死亡も重なつて協力会組織は事実上の解散状態にある。しかるに、これまで協力会において清算解散の手続は何ら執られていない。

(7) さらに、協力会の財産管理については、規約一五条が収支決算の承認を前記通信総会の議決事項として掲げるほかは、規約上何らの定めがない。そこで、協力会に送金されてきた登録手数料による収入の出納管理は、普段大次郎から任された原告においてこれを担当していたが、最終的には大次郎の自由意思によつて行われていた。そのため、右登録手数料による収入は、一旦「MB相互協力会会長納谷大次郎」等の名義で開設された普通預金口座に預け入れられていたが、後日自由に払い出されて費消しており、その結果、右普通預金口座の支払残高合計が昭和四五年一二月末で八六八万九、五〇〇円あつたのに、昭和四六年一二月末には一二八万四、五一三円、昭和四七年一二月末には一万五、八八八円しかなく、この間に払い出された右預金の使途は不明確なままである。しかも、右普通預金口座の預金中には、前記(2)のとおり、協力会の基本財産として積み立てられた筈の会員利用施設建設基金四〇〇万円とJMS共済会出資金二〇〇万円の合計六〇〇万円も含まれていたから、結局これも取り崩されて費消されてしまつたことになるところ、大次郎らが右取崩し費消を他会員や役員会に諮つた形跡は全く窺われない。

以上の事実が認められ、乙第一九、二〇号証及び原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は、前掲各証拠と対比して措信せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、協力会は、末だ権利能力なき社団として評価するに足るだけの組織実体を備えていたとはいえず、大次郎が個人の事業として主宰運営するいわゆるねずみ講であつたというべきである。そうとすれば、前掲甲第一一号証、乙第六号証の一、二、成立に争いのない乙第七、八号証、第一五号証の一、二によつて認められる協力会の昭和四五年度分の収益七七八万〇、八五〇円(登録手数料等による収入金額一、六九二万一、〇〇〇円から必要経費九一四万〇、一五〇円を差し引いた金額)は、大次郎個人の事業所得に該当するものといわなければならない。したがつて、右収益が権利能力なき社団である協力会に帰属するとの原告の主張は失当である。

2  本件更正処分の理由附記について

青色申告の承認を受けていた大次郎に対し被告署長のした本件更正処分の通知書に、更正の理由として、「あなたの主宰するMB相互協力会の所得については、個人の事業所得として申告の要があると認められますが、無申告であるため、次の算定により所得金額を定め更正します。収入金額一六、八九〇、〇〇〇円、必要経費五、〇六七、一五〇円、所得一一、八二二、八五〇円、なお、必要経費として計上しているあなたの給与六一四、七〇〇円は否認します。」と記載されていることは当事者間に争いがないところ、原告は、右の更正理由は、協力会が何故にその社団性を否定され、その収益が大次郎の個人所得になるのか等の点について説明を欠き、大次郎を納得せしむべきものではないので不備違法であり、さらに本件更正処分の理由附記にあたつては一層厳格になされるべき特別な事情があつた旨主張するので、この点につき検討する(なお、原告は、本件更正処分の理由附記については、右記載以外に専用実施権料に関する部分の附記理由についても不備である旨主張するが、裁決により右専用実施権料の支払が必要経費として認められ、その部分に関する原処分が取り消された結果、右取消し後の本件更正処分が本件訴訟の対象となつているのであるから、本件更正処分の理由附記の当否も右専用実施権料に関する部分を除いて判断すれば足りる。)。

前掲乙第一九号証、証人佐藤彬の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告署長のなした本件更正処分は、大次郎が記帳、保存していた協力会等名義の帳簿書類に記載のあつた協力会の昭和四五年度中の登録手数料等による収入金額と必要経費の金額をそのまま認めるのを前提としつつ、協力会は独立課税単位である権利能力なき社団とは評価されないこと、したがつてこれに係る収益は、大次郎個人の事業所得に帰属すると判断されること、その結果納税者本人である大次郎の給料は支払者と受領者が同一となるから当然に支払給料としての経費とは認められないこと等を内容とするものであることが認められる。

ところで所得税法一五五条二項が青色申告に係る所得税について更正する場合に、更正通知書に更正の理由を附記すべきことを要求している趣旨は、法が青色申告制度を採用して、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿書類による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがない旨を納税者に保障したものであると解される。したがつて、帳簿の記載自体の信憑性について問題がなく、その記帳を前提として、その記帳に係る収益が作成名義人である団体に帰属するのではなく、その代表者個人の所得に帰属するものとして更正する場合には、右法的評価、判断の前提事実が帳簿書類の記載によつて担保されているわけではないから、端的に処分庁の法的評価、判断の結論を示せば足り、何故に当該団体の社団性を否定し、個人の所得と認定したのかその理由、資料までも附記しなければならない趣旨であると解することはできない。本件においては、前記認定のとおり、被告署長が大次郎の作成、保管する帳簿書類の記帳自体を問題としたものでも、あるいは右に記載された収入及び必要経費の数額を否定したものでもなく、右収益の帰属につき納税者である大次郎と法的評価、判断を異にし、大次郎個人の所得と認定し、そのため論理必然的に大次郎への給料も否認することとなつたものであつて、被告署長の右評価、判断は前記附記理由に十分示されているということができるのであるから、被告署長が協力会を独立課税単位として認めずに大次郎個人の所得と認定した理由、資料を詳細に附記しなかつたからといつて、本件更正処分が違法となるものではないというべきである。また理由附記としてどの程度の記載をすべきかは、処分の内容、性質に対応して決定されるものであり、原告主張の特別事情はいずれも附記すべき理由を厳格にすべきことを法的に要請するものとはいえないから、右事情の有無を判断するまでもなく、前記理由附記が不備違法であるということはできない。よつて、原告の前記主張は採用できない。

3  差押公示書の瑕疵について

被告局長が昭和四七年四月二一日に滞納処分として本件動産(これが大次郎の所有に属することは後記第二の一に認定するとおりである。)を差し押さえたこと、しかし、その差押公示書記載の差押年月日が昭和四六年四月二一日となつていたことは当事者間に争いがないところ、原告は、右差押公示書の差押年月日の記載をもつて、右差押処分の効力は昭和四六年四月二一日に生じたと解すべきであるから、右差押処分は本件更正処分前に行われたという重大な瑕疵を有することになり、右瑕疵は本件更正処分自体にも及びこれを違法とする旨主張する。しかし、右差押処分の効力が昭和四七年四月二一日に生じたことは、後記第二の三の2に説示するとおりであるから、右主張も失当である。

以上の次第で、本件更正処分に原告主張の違法はないから、本件更正処分は適法というべきである。そして、本件更正処分を前提として国税通則法六五条一項に基づき行われた本件賦課決定処分も、その手続、内容に何らの瑕疵は認められないから適法である(なお、同法六五条二項によれば、過少申告をしたことにつき正当な理由がある場合には、当該部分につき加算税を賦課しないこととされているが、原告に右の正当な理由があつたと認めるに足りる証拠はないから、本件賦課決定処分にこの点に関する違法もない。)。したがつて、主位的請求1は理由がない。

第二主位的請求2及び第二位的請求2に対する判断

一  請求原因二の事実(本件徴収処分の経過)は、1の差押処分に係る本件動産が協力会の所有であるとの点、2の差押処分の行われた日が昭和四七年四月二一日であるとの点、4の仮処分申請及び5の訴訟提起が滞納処分として行われたとの点を除き、当事者間に争いがない。そして、前記第一の三の1において認定した事実と、成立に争いのない乙第二号証の一、二、第四号証の一及び弁論の全趣旨を総合すると、本件動産は、大次郎が協力会の名称で主宰運営していたねずみ講の事務遂行上使用されていたものと認められるから、これも大次郎個人の所有に属すると認めるのが相当である。また、成立に争いのない乙第一号証によれば、請求原因二の2の差押処分が行われたのは、昭和四七年四月二一日ではなく、同月二〇日であつたことが認められる。

二  原告は、主位的請求2の(一)により被告局長が滞納処分としてした請求原因二の1ないし3の各差押処分(以下「本件各差押処分」という。)の取消しを求めるが、国税通則法七五条一項二号、一一五条一項によれば、本件各差押処分のように国税局長がした国税に関する法律に基づく処分の取消しを求める訴えは、右一一五条一項一号ないし三号所定の事由がない限り、国税不服審判所長に対する審査請求についての裁決を経た後でなければこれを提起することができないとされており、本件各差押処分について審査請求及びこれに対する裁決を経ていないことは原告の自認するところであるから、主位的請求2の(一)は不適法な訴えというべきである。もつとも、原告は、この点について前記一一五条一項三号所定の正当な理由があつた旨主張するが、右に主張する事由のうち、大次郎が審査裁決を経由して出訴していたのでは本件動産が公売に付されるなど徴収処分の進行により著しい損害を受けるおそれが強かつたことについてはこれを認めるに足りる証拠はなく、その他の事由も審査裁決不経由の正当な理由にあたるものとは到底解し難い。のみならず、前掲乙第一号証、第二号証の一、二、成立に争いのない乙第三号証及び弁論の全趣旨によれば、大次郎は本件各差押処分が行われた当日ないし翌日にはその処分の事実を了知していることが認められ、主位的請求2の(一)が右原告の了知の日から三か月以上を経過して提起された訴えであることは本件記録上明らかであるから、国税通則法一一五条一項三号所定の正当な理由の有無に拘らず、右各訴えは、行政事件訴訟法一四条一項所定の出訴期間を徒過した不適法な訴えといわざるを得ない(なお、原告は、裁決がない限り出訴期間は進行しない旨主張するが、そのためには、適法に審査請求がなされていることが前提であり(行政事件訴訟法一四条四項)、本件において審査請求自体がなされていないことは前記のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。)。そうすると、主位的請求2の(一)は、いずれも正当な理由なく審査裁決を経ていないものとして、又は出訴期間を徒過したものとして不適法な訴えといわなければならず、原告が本件各差押処分の違法を争うには、その無効確認訴訟によるほかない。

三  そこで、本件各差押処分の無効確認を求める第二位的請求2の(一)について判断する。

1  まず、原告は、本件課税処分が違法であるから、これに基づく本体各差押処分も違法である旨主張するが、本件課税処分自体に何らの違法もないことは前記第一で説示したとおりであるから、原告の右主張は失当といわざるを得ない。

2  次に、原告は、本件各差押処分のうち請求原因二の1の差押処分の効力が生じたのはその差押公示書に差押年月日として記載された昭和四六年四月二一日であると解すべきことを前提に、本件各差押処分の手続要件である督促(国税徴収法四七条)がなされたのが昭和四七年三月一一日であるから、右督促に先行する右差押処分は違法であり、また、右差押処分後になされた右督促も違法となる結果、右督促を前提としてなされた右差押処分以外の差押処分も違法である旨主張する。

しかしながら、国税徴収法六〇条二項は、滞納処分として差し押えた動産等を滞納者に保管させたときは、公示書等により差し押さえた旨を表示した時に、差押えの効力が生じる旨規定しており、成立に争いのない甲第二号証及び前掲乙第二号証の一、二によれば、昭和四七年四月二一日、本件動産が札幌国税局所属の大蔵事務官によつて差し押さえられた際も、右大蔵事務官がその執行後その場において執行に立ち会つた大次郎及び原告親子に対しその差押調書謄本を交付するとともに、公示書によつて本件動産を滞納処分として差し押さえた旨表示していることが認められるから、右差押処分、すなわち請求原因二の1の差押処分の効力は、現実に公示書にその旨表示された時点である昭和四七年四月二一日に生じたものというべきである。もつとも、右公示書の差押年月日の記載が昭和四六年四月二一日となつていることは当事者間に争いがなく、右記載は誤記であることが明らかであるところ、国税徴収法六〇条二項が公示書等による表示をもつて差押えの効力要件としているのは、公示書等により対外的に当該動産等が差し押さえられていることを明らかにすることによつて、一般取引の安全を保護し、第三者に不測の損害を被らせない趣旨に基づくものと解されるから、仮に右公示書等の差押年月日につき誤記があつたとしても、当該動産等が差し押さえられた旨が明らかであれば、その差押えが直ちに違法となるものではないと解するのが相当であり、ましてやその公示書等に記載された通りの年月日に差押えの効力が生じるものではない。よつて、差押公示書の記載の誤りを理由として本件各差押処分の違法をいう原告の前記主張も採用の限りでない。

3  また、原告は、本件更正処分にかかる租税債務は、権利能力なき社団である協力会の収益について生じたもので、協力会が負担すべきものであるから、これに基づき大次郎の個人財産を差し押さえた本件各差押処分は違法である旨主張する。

しかしながら、本件更正処分にかかる租税債務が大次郎個人の所得について生じたものであることは前記第一の三の1で説示したところから明らかであるから、原告の右主張も採用できない。

4  さらに、原告は、本件更正処分にかかる租税債務の徴収権は時効により消滅しているから、本件各差押処分は違法である旨主張するが、右徴収権の消滅時効は、その時効期間満了前に適法に行われたものと認められる本件各差押処分によつて中断したままとなつているから(弁論の全趣旨によれば、本件各差押処分は未だ取り消されていないことが認められる。)、右主張も失当というほかない。

以上のとおり、本件各差押処分には、原告主張の違法は何ら存しないから、右各処分をもつて違法無効ということはできず、したがつて、第二位的請求2の(一)は理由がない。

四  次に、原告は、請求原因二の4の仮処分申請及び同5の訴訟提起について、主位的請求2の(二)によりその取消しを、第二位的請求2の(二)によりその無効確認を求めるが、右の各行為は、国が債権者あるいは原告としてした民事訴訟法上の訴訟行為であつて、いわゆる抗告訴訟の対象となる行政処分ではないから、被告局長に対しその取消し又は無効確認を求めることはできない。したがつて、右各請求はいずれも不適法な訴えといわなければならない。

第三第三位的請求に対する判断

一  第三位的請求1及び3は、租税債務ないし納税義務の不存在確認を求める訴えであるから、いずれも公法上の権利関係に関するいわゆる当事者訴訟(行政事件訴訟法四条)に該当するところ、右権利関係の帰属主体でない被告署長及び被告局長は、右各請求につき被告適格を有しない。したがつて、右の各請求はいずれも不適法な訴えといわなければならない。

二  次に、第三位的請求2の(一)及び(二)は、いずれも被告署長又は被告局長に対し行政処分をなすべきことを求めるいわゆる義務づけ訴訟である。しかし、かかる訴訟は、いわゆる三権分立主義の建前からいつて、行政庁が当該行政処分をなすべきことを法律上覊束されていて、行政庁の第一次的判断権を留保する必要がなく、しかも、行政庁により当該行政処分がなされるのを待つていたのでは国民が回復し難い損害を被り又は被る危険が切迫しているというような緊急やむを得ない事情がある場合に限つて許されるものと解すべきである。しかるところ、原告が第三位的請求2の(一)及び(二)によつて被告らに対し発動を求める更正処分及び充当処分が法律上の覊束処分に該当しないことは明らかであり、しかも、原告に前記のような緊急やむを得ない事情があると認めるに足りる証拠もない。したがつて、右各請求もいずれも不適法な訴えといわざるを得ない。

第四結論

以上の次第であつて、原告の本訴請求のうち、主位的請求2の(一)、(二)、第二位的請求1及び2の(二)並びに第三位的請求1、2の(一)、(二)及び3に係る訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相良朋紀 小磯武男 山田俊雄)

選定者目録〈省略〉

(別紙)

原告

被告ら

(請求の趣旨)

一 主位的請求

1 被告北見税務署長(以下「被告署長」という。)が原告及びその余の選定者ら(以下「原告ら」と総称する。)の被相続人納谷大次郎(以下「大次郎」という。)に対して、昭和四七年二月一〇日付でなした同人の昭和四五年分所得税の総所得金額を一、二一三万六、六二三円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税二三万三、一〇〇円の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)(ただし、いずれの処分についても昭和五二年八月三日付裁決による一部取消し後のもの、以下同じ。)を取り消す。

(請求の趣旨に対する答弁)

一 主位的請求について

(被告署長)

原告の請求を棄却する。

2(一) 被告札幌国税局長(以下「被告局長」という。)が

(1) 昭和四七年四月二一日に昭和四六年四月二一日付差押公示書をもつて別紙物件目録一記載の各動産(以下「本件動産」という。)を差し押さえた処分

(2) 昭和四七年四月二〇日付で大次郎の原告補助参加人有限会社ハニーハウス(以下「補助参加人会社」という。)に対する別紙物件目録二記載の不動産(以下「本件不動産」という。)の売却残代金債権三一万二、七八〇円を差し押さえた処分

(3) 昭和四七年四月二四日付で大次郎の補助参加人会社に対する出資持分八〇万円を差し押さえた処分をいずれも取り消す。

(二) 被告局長が

(1) 国を債権者とし、補助参加人会社を債務者として、昭和四七年一一月二八日付で、釧路地方裁判所北見支部に対し、本件不動産につき処分禁止の仮処分(同支部同年(ヨ)第二一号)を申請した行為

(2) 国を原告とし、補助参加人会社を被告とし、昭和五〇年二月三日付で、釧路地方裁判所北見支部に対し、本件不動産につき所有権移転登記抹消登記手続請求の訴え(同支部同年(ワ)第八号)を提起した行為をいずれも取り消す。

(被告局長)

1 本案前の答弁

本件訴えをいずれも却下する。

2 本案の答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

二 第二位的請求

1 被告署長が大次郎に対してなした本件更正処分及び賦課決定処分が無効であることを確認する。

2(一) 被告局長がなした主位的請求2の(一)記載の各処分がいずれも無効であることを確認する。

(二) 被告局長がなした主位的請求2の(二)記載の各行為がいずれも無効であることを確認する。

二 第二位的請求について

(被告署長)

1 本案前の答弁

本件訴えを却下する。

2 本案の答弁

原告の請求を棄却する。

(被告局長)

1 本案前の答弁

第二位的請求2の(二)の訴えを却下する。

2 本案の答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

三 第三位的請求

1 原告と被告らとの間で、被告署長が大次郎に対してなした本件更正処分及び賦課決定処分に基づく原告らの租税債務のうち九九万六、七七〇円を超える部分は不存在であることを確認する。

2(一) 被告署長は大次郎の昭和四六年分所得税の総所得金額を純損失三五四万五、七三一円とする減額更正処分をせよ。

(二) 被告局長は大次郎の右昭和四六年分所得税の総所得金額の純損失額三五四万五、七三一円を所得税法一四〇条の規定により繰り戻した場合に還付される所得税の額に相当する一五六万六、三〇〇円を大次郎の昭和四五年分所得税の未納税額に充当せよ。

3 原告と被告らとの間で、被告署長が大次郎に対してなした本件更正処分及び賦課決定処分に基づく租税債務のうち九九万六、七七〇円を超える部分は原告らに納付責任がないことを確認する。

三 第三位的請求について

(被告両名)

1 本案前の答弁

本件訴えをいずれも却下する。

2 本案の答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

四 訴訟費用は被告らの負担とする。

(請求原因)

一 本件課税の経過

1 大次郎は不動産貸付業を営み、青色申告の承認を受けている者であつたところ、昭和四五年分所得税について、確定申告期限内に被告署長に対し、総所得金額を七二万五、五三三円(不動産所得三一万三、七七三円、給与所得四一万一、七六〇円)、納付すべき税額を二万五、六〇〇円とする確定申告をしたが、被告署長は昭和四七年二月一〇日付で、総所得金額を一、二一三万六、六二三円(不動産所得三一万三、七七三円、事業所得一、一八二万二、八五〇円)、納付すべき税額を四六八万八、四〇〇円とする本件更正処分及び過少申告加算税二三万三、一〇〇円の本件賦課決定処分をした。

四 訴訟費用は原告の負担とする。

(請求原因に対する認否)

一 (被告両名)

1 認める。

2 大次郎は、右各処分を不服として昭和四七年四月六日付で被告署長に異議申立てをしたが、被告署長は、昭和四八年一二月一八日付で右各処分の一部を取り消し、総所得金額を一、一四五万六、六二三円(不動産所得三一万三、七七三円、事業所得一、一一四万二、八五〇円)、納付すべき税額を四三六万八、三〇〇円、過少申告加算税の額を二一万七、一〇〇円とする異議決定をした。大次郎は、さらにこれを不服として昭和四九年一月一六日付で国税不服審判所長に審査請求をしたが、翌一七日死亡したため、相続人である原告らが大次郎の地位を承継した。しかして、国税不服審判所長は、昭和五二年八月三日付で原処分を一部取り消し、総所得金額を八〇九万四、六二三円(不動産所得三一万三、七七三円、事業所得七七八万〇、八五〇円)、納付すべき税額を二六二万五、八〇〇円、過少申告加算税の額を一三万円とする裁決をなし、その旨の裁決書を原告は同年八月二〇日、選定者納谷カツは同年八月三一日、同太田侑子は同年八月二二日、同納谷彬一は昭和五三年一月二七日それぞれ受領した。

2 認める。なお、国税不服審判所長の裁決書は、原告ら以外の大次郎の法定相続人である訴外小笠原幸枝及び同小笠原恭栄も昭和五二年八月二〇日にそれぞれ受領している。

二 本件徴収処分の経過

被告署長は、昭和四七年三月一一日前記租税について大次郎に対し督促を行つたうえ、その徴収を被告局長に引き継いだ。そして、被告局長は、滞納処分として、

二 (被告両名)

冒頭部分は認める。ただし、被告局長が滞納処分として行つたのは、1ないし3までの処分である。

1 昭和四七年四月二一日、MB相互協力会(以下「協力会」という。)の所有にかかる本件動産を大次郎個人の所有財産として差し押さえ、さらにその際差押公示書の日付を昭和四六年四月二一日付とした。

1 被告局長が、徴収職員によつて、本件動産を差し押さえたことは認めるが、右動産が大次郎の所有ではなく協力会の所有であるとの点は否認する。

また、差押公示書の日付が原告主張の日となつていることは認める。

2 昭和四七年四月二一日に同月二〇日付で、大次郎が補助参加人会社に対して有する本件不動産の売買残代金債権三一万二、七八〇円を差し押さえた。

2 認める。ただし、差押え日は昭和四七年四月二〇日である。

3 昭和四七年四月二四日、大次郎が補助参加人会社に対して有する出資持分(出資金額八〇万円)を差し押さえた。

3 認める。

4 前記のとおり、大次郎が補助参加人会社に対して有する本件不動産の売買残代金債権を差し押さえておきながら、右売買契約を通謀虚偽表示又は詐害行為であるとして、昭和四七年一一月二八日、国を債権者、補助参加人会社を債務者として、釧路地方裁判所北見支部に本件不動産の処分禁止の仮処分申請(同支部同年(ヨ)第二一号)をなし、翌二九日同支部よりその旨の仮処分決定を得た。

4 国が補助参加人会社に対して、原告主張の仮処分申請をし、その旨の決定を得たことは認める。

5 さらに、右仮処分事件の本案として、昭和五〇年二月三日、国を原告、補助参加人会社を被告として、右支部に本件不動産について所有権移転登記抹消登記手続請求訴訟(同支部同年(ワ)第八号)を提起し、右訴訟は現に係属中である。

5 国と補助参加人会社との間に原告主張の訴訟が係属していることは認める。

三 本件更正処分及び賦課決定処分の違法

1 所得の帰属に関する認定の誤り

被告署長は、昭和四五年において、大次郎に一、一八二万二、八五〇円(裁決により一部取り消され、七七八万〇、八五〇円とされた。)の事業所得があつたものと認定して本件更正処分に及んだものであるが、右認定は、大次郎が会長をしていた権利能力なき社団である協力会の収益金を大次郎個人の所得とみなした過誤に基づくものであつて、違法である。

三 (被告署長)

1 被告署長が大次郎に原告主張の事業所得があつたものと認定して本件更正処分をなしたことは認めるが、その余は争う。

2 青色申告の更正における理由附記不備の違法

(一) 大次郎に対する本件更正処分の通知書には、更正理由として、「あなたの主宰するMB相互協力会の所得については、個人の事業所得として申告の要があると認められますが、無申告であるため、次の算定により所得金額を定め更正します。収入金額一六、八九〇、〇〇〇円、必要経費五、〇六七、一五〇円、所得一一、八二二、八五〇円、なお、必要経費として計上しているあなたの給与六一四、七〇〇円は否認します。また専用実施権料として納谷興平氏に支払つている三、三六二、〇〇〇円についても、次により否認します。〈1〉パテント的な内容のものとは認められない。〈2〉支払額について役員会の議決はあるとしても、あなたと納谷興平氏とは親子関係であり、任意性がある。」と記載されていた。

(一) 認める。

(二) しかし、右の更正理由は、協力会が何故にその社団性を否定され、その収益が大次郎の個人所得になるのか、協力会の収益が何故に課税対象になるのか、必要経費の認定はどのようになされたか等の点について、協力会が自己の営利事業体であるとの認識の全くなかつた大次郎を納得せしむべきものではないばかりか、協力会における「役員会」の存在を認めながら、その社団性を否定し、あるいは「役員会の議決」があつたことを認めながら、これに基づく原告への専用実施権料の支払を「任意性がある」という理由で否認する(もつとも裁決では右専用実施権料の支払は経費として認められた。)という内容自体が矛盾したものであつて、到底理由といえるものではなかつた。しかも、本件更正処分は、(1)札幌国税局職員が昭和四六年一月一一日に協力会事務局を訪れ、同会の経理内容、記帳状況、関係書類の取調べ指導を行つた際、原告において右職員に対し、協力会の模倣団体が存在していることを指摘してこれらと誤りがないようにして欲しい旨申し入れていること、(2)大次郎と原告は連名で被告署長に対し、昭和四六年二月二二日付で質問状を提出し、当局との間における協力会の収益等についての見解の相違点につき、その具体的な法的根拠をただしていること、(3)北海道新聞の昭和四六年六月五日付夕刊及び同月六日付日刊に協力会を指し「所得税の申告書を提出しており、税務上の問題はない。」旨の札幌国税局の見解が掲載されていること、(4)被告署長が本件更正処分通知書に不服申立手続の任意選択(国税通則法七五条四項一号)を教示することにより、帳簿書類について真実性を疑うに足りる不実の記載がある等所得税法一五〇条所定の青色申告承認の取消事由が存在しないことを認めていること、(5)協力会の収益を大次郎の個人所得とするに当たつて、協力会とその構成員たる会員との間の総有関係を否認しうる格別の法規定が存在していないこと等の事実があつたうえでなされたものであつて、一般の更正事例とは著しく事案を異にするものであつたから、その理由附記は一層厳格になされるべきであつた。したがつて、本件更正処分に理由附記不備の違法があることは明らかである。

(二) 争う。ただし、専用実施権料が裁決において、経費として認められたこと、札幌国税局職員が昭和四六年一月一一日に協力会事務局を訪ね、同会の経理内容、記帳状況、関係書類の取調べ指導を行つたこと、大次郎と原告が連名で被告署長に対し、昭和四六年二月二二日付で原告主張の質問状を提出していることは認める。

3 差押公示書の瑕疵

二項1記載のとおり、被告局長が昭和四七年四月二一日に協力会所有の本件動産を差し押さえた際、同局長は右差押えに係る差押公示書の日付を昭和四六年四月二一日とした。ところで、国税徴収法六〇条によれば、公示書等により差し押さえた旨の表示は差押えの効力発生要件であつて、またその故に同法施行令二六条は公示書に差押年月日を明らかにすべき旨規定しており、行政処分が公定力を有し、一応その内容のとおりの効力を有すること等を併せ考えると、差押えの形式的効力は、差押公示書に表示された日に生じるものと解すべきである。したがつて、被告局長がなした前記差押えは昭和四六年四月二一日にその効力が生じたものであるところ、本件更正処分がなされたのは昭和四七年二月一〇日であるから、右差押えは更正処分のなされる以前にその内容を実現すべく行われたという重大な瑕疵を有することになり、右瑕疵は、申告納税方式のもとで確立された租税確定手続と徴収手続の順序を違えるいわば租税の賦課、徴収手続の根幹に抵触するものであつて、右差押えのみならず、正当な順序を違えた本件更正処分自体にも瑕疵を及ぼし、これを違法とするものである。

3 差押公示書の差押年月日の表示が昭和四六年四月二一日となつていたことは認めるが、その余は争う。

4 よつて、原告は、被告署長に対する関係で、主位的に本件更正処分及び右処分を前提とする本件賦課決定処分の取消しを求める。仮に右請求が容れられない場合には、本件更正処分の違法は明白かつ重大なものであるから、右各処分の無効確認を求める。

4 争う。

四 本件徴収処分の違法

三項記載のとおり、本件更正処分及び賦課決定処分は違法であるから、これに基づく被告局長による二項記載の本件各徴収処分も全部違法となるべきものであるが、右各徴収処分自体にも以下のような違法事由がある。

四 (被告局長)

冒頭部分は争う。

1 差押公示書の瑕疵

三項3記載のとおり、被告局長がなした二項1記載の差押えは、その効力が昭和四六年四月二一日生じたと解すべきところ、本件の各徴収処分の前提要件である督促がなされたのは、二項記載のとおり、昭和四七年三月一一日であつたから、結局右差押えは督促に先行して行われたことになる。しかして、督促は徴収処分の前提要件であつて、本件において督促に先行し差押えをなすことが許される事由は何ら存在していないのであるから、右差押えが違法であることはいうまでもなく、右差押えの後になされた督促も違法であり、ひいては違法な督促を前提にしてなされた右差押え以外の本件各徴収処分も全部違法である。

1 争う。

2 大次郎個人財産差押等の違法

三項1記載のとおり、協力会は権利能力なき社団であつて、かつ代表者の定めがあるから、協力会には国税徴収法三条が適用されるべきであり、仮に協力会の収益金が課税対象となるにしても、その租税債務は協力会に総有的に帰属すべきものである。しかして、本件の租税債務のうち被告署長の更正処分にかかる分は協力会の収益について生じたものであり、協力会が負担すべきものであるから、被告局長が大次郎の個人財産を対象にして行つた二項2及び3記載の各差押え並びに補助参加人会社所有の本件不動産を目的とする同項4及び5記載の仮処分申請行為及び民事訴訟提起行為は違法である。

2 争う。

3 仮処分申請行為及び民事訴訟提起行為の違法

被告局長による二項2記載の債権差押えにおいて、現実に右差押えに当たつた札幌国税局職員島三夫は、大次郎及び原告に対し、大次郎と補助参加人会社との間における本件不動産の売買契約は法的に問題がないから直ちに納付するよう命じた。そのため大次郎及び原告は、被告局長が代金債権を差し押さえ、しかもその際国税局職員から右のような言明を受けた右不動産売買契約が、後になつて被告局長ないし国によつて否定されるようなことはないと信じていたところ、被告局長は右差押えから約七か月経過後に国を当事者として右不動産売買契約を否定する二項4記載の仮処分申請をなしたうえ、右仮処分の本案として同項5記載の民事訴訟を提起したものであつて、右仮処分申請行為及び民事訴訟提起行為は、租税法の分野においても遵守せられるべき信義誠実の原則ないし禁反言の法理に反するから、ともに違法である。

3 不知ないし争う。

4 租税徴収権の時効消滅

大次郎に対する本件租税の徴収権は、その確定申告期限である昭和四六年三月一五日から五年を経た昭和五一年三月一五日の経過とともに時効により消滅している。

5 よつて、原告は、被告局長に対する関係で、主位的に二項1ないし5記載の各処分及び行為の取消しを求める。仮に右請求が容れられない場合には、右各処分及び行為の違法は明白かつ重大なものであるから、その無効確認を求める。

4 争う。

五 以上の請求全部が認容されない場合には、原告は次のとおり主張、請求する。

五 (被告両名)

1 九九万六、七七〇円を越える租税債務の不存在確認

(一) 滞納処分としての差押えによる租税徴収権の消滅時効中断の効力は、当該差押えの対象たる物又は権利の価額に相応する限度においてのみ生ずるものであつて、差押えの対象たる物又は権利の価額を超える部分については、徴収権の消滅時効が進行するものと解すべきである。蓋し、滞納処分としての差押えは、裁判による確定を経ていない租税債権に基づいて自力執行として行われるのであるから、租税債権のうち極く僅少な部分しか満足させない価値の乏しい物又は権利を差し押えたことにより、右の租税債権全部について徴収権の消滅時効が中断すると解することは、租税に関する裁判制度及び時効制度を形骸化させるからである。

(一) 争う。

(二) 本件においては、四項記載のとおり、被告局長のなした徴収処分としての差押え等は違法であるが、仮に適法で時効中断の効力を有するものがあるとしても、それは二項2及び3記載の各差押えのみである。

(二) 争う。

(三) しかしながら、二項2記載の差押えにかかる大次郎の補助参加人会社に対する本件不動産の売買残代金中一一万六、〇一〇円は、補助参加人会社が右差押え前から大次郎に対し有しており、かつ、右差押え前に相殺適状の状態にあつた同額の反対債権によつて相殺されたことにより消滅したので、右差押えによつては残余の一九万六、七七〇円について時効中断の効力が生じたに過ぎない。

(三) 相殺の事実は不知。その余は争う。

(四) したがつて、本件租税債権のうち、右一九万六、七七〇円と二項3記載の差押えにかかる八〇万円との合計九九万六、七七〇円を超える部分の徴収権は、確定申告期限である昭和四六年三月一五日から五年を経過した昭和五一年三月一五日の経過とともに時効によつて消滅した。

(四) 争う。

(五) よつて、原告は被告らとの間で、本件更正処分及び賦課決定処分に基づく原告らの租税債務のうち、九九万六、七七〇円を超える部分が不存在であることの確認を求める。

(五) 争う。

2 純損失繰戻しによる還付請求

(一) 仮に本件更正処分における大次郎の所得の算定が適正であるとすれば、それと同様の方法で算出した大次郎の昭和四六年分所得税にかかる事業所得は三七三万三、〇二三円の損失となり、同人の同年分の他の所得と通算した純損失額は三五四万五、七三一円となる。

(一) 不知。

(二) しかして、大次郎は、昭和四六年分所得税の確定申告に際し、右の事業所得の純損失額を計上しなかつたのであるから、被告署長に対しこれを算入した減額更正の請求をしたうえ、青色申告書の提出者として、所得税法一四〇条の規定に基づき、右純損失額の昭和四五年分所得税への繰戻しによつて、一五六万六、三〇〇円の所得税の還付を受け得たはずであるところ、被告署長は、一項記載の経過に照らして明らかなとおり、大次郎の昭和四五年分所得税について過大な所得認定をして本件更正処分(ただし、異議決定及び裁決により一部取り消される前のもの)を行い、大次郎の異議申立てに対しても、長期間引き延ばしたうえ、右更正処分の大半を維持する不適正な異議決定をした結果、大次郎ないしその相続人である原告らが裁決によつて適正な事業所得の算定方法を知つたときには、既に昭和四六年分所得税確定申告にかかる通常の更正の請求期間を経過していたという事態をもたらし、結局大次郎ないし原告らに昭和四六年分所得税について適正な事業所得の算定をして減額更正及び純損失の繰戻しによる還付の各請求をする機会を失わしめたものである。

(二) 争う。

(三) したがつて、原告らは、被告署長の責に帰すべき事由によつて、右の減額更正の請求及び純損失の繰戻しによる遷付請求をなしえなかつたのであるから、少なくとも右各請求をなした場合の法的効果と同様の利益を受けるべきことを被告署長及び被告局長に主張しうるものというべきである。

(三) 争う。

(四) よつて、原告は、被告署長に対し、大次郎の昭和四六年分所得税の総所得額を純損失三五四万五、七三一円とする減額更正処分をなすことを求め、被告局長に対し、右純損失額を所得税法一四〇条の規定により繰り戻した場合に遷付される所得税相当額一五六万六、三〇〇円を大次郎の昭和四五年分所得税の未納税額に充当することを求める。

(四) 争う。

3 九九万六、七七〇円を超える租税債務の納付責任不存在確認

(一) 仮に本件更正処分が適正であるとしても、被告署長は、一項記載の経過に照らして明らかなとおり、大次郎の昭和四五年分所得税について過大な所得認定をして本件更正処分(ただし、異議決定及び裁決により一部取り消される前のもの)を行い、大次郎の異議申立てに対しても長期間引き延ばしたうえ、右更正処分の大半を維持する不適正な異議決定をなしたものである。

(一) 争う。

(二) しかして、もし被告署長が当初から適正な更正処分をなしていれば、大次郎の相続人である原告らは、大次郎の死亡時に相続放棄又は相続の限定承認をなして、同人の租税債務の承継を免れえたはずであつたのに、被告署長が右の過大所得認定による不適正な更正処分及び異議決定をしたため、これを争うべく単純承認することを余儀なくされたものである。

(二) 争う。

(三) したがつて、原告らは、被告署長の責に帰すべき事由によつて、大次郎死亡時の相続放棄又は限定承認をなす機会を奪われたものであるから、少なくとも限定承認をしていた場合の法的効果と同様の利益を受けるべきことを被告署長及び被告局長に主張しうるものと解すべきである。

(三) 争う。

(四) よつて、大次郎死亡時において、同人の遺産であり、かつ適法な差押えを受けていたのは、本項1記載のとおり合計九九万六、七七〇円の財産のみであるから、原告は、被告らとの間で、原告らの承継した租税債務のうち、右九九万六、七七〇円を超える部分は原告らに納付責任がないことの確認を求める。

(四) 争う。

(本案前の主張に対する認否及び反論)

一 被告署長の主張について

争う。

行政処分に無効事由があれば当然取消事由があることになるが、逆に取消事由があつても当然には無効事由があることにはならないから、主位的に行政処分の取消請求をし、予備的に無効確認請求をすることは訴えの利益がある。

(本案前の主張)

一 被告署長

原告は、主位的請求1により本件更正処分及び賦課決定処分の取消しを求める請求をしており、これに対する判断によつてその目的が達せられ、かつ無効について判断される余地はないので、第二位的請求1により右各処分の無効確認を求める利益はない。

二 被告局長の主張について

1 大次郎ないし原告らが被告局長主張の各訴えを提起するにあたつて審査請求を経ていないことは認めるが、その余は争う。

右審査請求を経ていないことについては、以下の正当事由が存する。

主位的請求2の(一)の(1)の差押処分に関しては、請求原因二項1記載のとおり、本来協力会所有の本件動産を被告局長が一方的に大次郎所有の動産と認定して差し押さえたため、大次郎個人が審査請求をすべきものかどうか判断が困難であつたうえ、本件更正処分について既に審査請求をしていたこと、また、原告に対し差押えにかかる本件動産の使用許可があつたので、差し押さえられていても業務に支障がなかつたこと、審査請求を経由して出訴していたのでは本件動産が公売に付されるなどして著しい損害を受けるおそれが強かつたこと等の事情があつたためである。

主位的請求2の(一)の(2)及び(3)の差押処分に関しては、請求原因四項3記載のとおり、本件不動産の売買契約が否定されることはないと信じていたこと、審査請求を経由して出訴していたのでは徴収処分の進行により著しい損害を受けるおそれが強かつたこと、本件更正処分の取消しを求める訴訟が既に係属していたので、右訴訟に併合のうえ審理されることが望ましかつたこと等の事由があつたためである。

なお、右各徴収処分の取消しを求める訴えについては、以上に述べた正当事由によつて審査請求をしていないから、審査裁決もなされていないが、審査裁決がない限り出訴期間は進行しないと解すべきである。

二 被告局長

1 主位的請求2の(一)については、いずれも(イ)国税通則法一一五条所定の不服申立ての前置がなされておらず、そのことにつき正当の理由は存在しないし、(ロ)仮に右の点につき要件を具備するとしても、既に行政事件訴訟法一四条所定の出訴期間を経過しているから不適法である。

2 争う。

2 原告が主位的請求2の(二)において取消しを求め、第二位的請求2の(二)において無効確認を求める仮処分申請行為及び民事訴訟提起行為は、いずれも国が一債権者としてなした民事訴訟法上の訴訟行為であり、被告局長がなしたものではなく、また取消し又は無効確認の訴えの対象となる行政処分ではないから、右各訴えは不適法である。

三 被告両名の主張について

1 争う。

三 被告両名

1 第三位的請求1及び3の訴えは、いずれも公法上の権利関係に関するいわゆる当事者訴訟であつて、権利帰属主体でない被告署長及び被告局長はそもそも当事者能力を有しないから不適当である。

2 争う。

原告らは本件更正処分や長期間審査裁決がなされなかつたこと等によつて、著しい精神的、経済的損害を被つているから、その救済措置として、不作為の違法確認や損害賠償の請求によるまでもなく、本件のような義務づけ訴訟が許容されるというべきである。

2 第三位的請求2の(一)及び(二)の訴えは、被告署長又は被告局長の行政処分の発動を求める給付の訴えであり、本件において原告にこのような給付(義務づけ)訴訟を認めるべき特段の事情は存在せず、行政事件訴訟法の許容しないものであるから不適法である。

(本案についての主張に対する認否及び反論)

一 被告署長の主張について

1 (ロ)は認めるが、その余は争う。

(本案についての主張)

一 被告署長

1 本件更正処分の適法性について

大次郎の昭和四五年分所得税に係る総所得金額の内訳は

(イ) 事業所得

収入金額

一、六九二万一、〇〇〇円

(内訳)収入金額

一、六九一万五、〇〇〇円

雑収入     六、〇〇〇円

必要経費

九一四万〇、一五〇円

所得金額

七七八万〇、八五〇円

(ロ) 不動産所得

収入金額 九七万二、五二三円

必要経費 六五万八、七五〇円

所得金額 三一万三、七七三円

であつて、その総所得金額は八〇九万四、六二三円と認められるから、右金額を課税標準として被告署長がなした本件更正処分は適法である。

(一) 協力会がいわゆるねずみ講の一種であるとの主張は争い、その余は認める。

協力会は、昭和四五年九月ころ、北見青色申告会事務局員であつた原告と同会青年婦人部会有志とが相謀り、青色申告会館の建設や会員相互の福利共済事業を興すために独自の会員組織をつくることを計画して、原告が会員勧誘のための協力金送金システムを研究する一方で、原告を含む賛同者八名で設立発起人会を開き、右発起人会において協力会規約を制定し、協力会の会長に大次郎を選出したほか、その委嘱により八名の協力会役員を決定して発足させたものであり、会の目的は、会員相互の扶助と福利共済事業を興すことにあつて、大次郎個人の営利を目的とするものではなかつた。

2 協力会の性格について

(一) 原告の主張する協力会とは、入会を希望する者が協力会本部の指名する先輩会員二名に協力金として各五、〇〇〇円を、また協力会本部に登録手数料として、五、〇〇〇円を送金することによつて会員となり、爾後後輩会員三二名から各五、〇〇〇円、合計一六万円の協力金の送付を受けられるとする、いわゆるねずみ講の一種である。

(二) 協力会が権利能力なき社団としての要件を備えていないとの主張は争う。

協力会は、独自の名称と事務所とを有し、会員の加入、退会にかかわらずその存続が予定されていたこと等の事実があるから、権利能力なき社団としての要件に欠けるところはない。仮に右要件に多少欠ける点があるとしても、それは協力会の特殊性によるものであつて、税務上の権利主体たる地位に影響を及ぼすものではない。

(二) ところで、権利能力なき社団として成立するためには、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において、代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要すると解すべきところ、協力会は、以下のとおり、右の各要件を備えているものとは到底認められず、権利能力なき社団ではないといわなければならない。すなわち、

(1) 争う。

協力会会員は協力会事務所において規約を閲覧する権利を有していた。

(1) 設立発起人らによつて制定されたとされる協力会の規約は、入会希望者に示されたものではなく、総会で会員の同意ないし了解を得たものでもないから、真実の協力会の規約であるとはいえない。

(2) 協力会規約に会員資格の取得及び喪失の要件を規定していることは認めるが、その余は争う。

協力会の会員が新会員を勧誘する際には、必ず入会希望者に勧誘の手紙が渡され、右手紙には、協力会本部に送金された登録手数料から経費を差し引いた剰余金が積み立てられて会員が利用できる施設の建設資金となる旨、また会員には交通傷害共済の証書が交付される旨明記されており、入会希望者は協力会の事業に対する権利を知り得たものである。

(2) 右協力会規約は、会員資格の取得及び喪失の要件を規定してはいるが、会員が協力会に対し、いかなる権利、義務関係にあるかを明らかにしておらず、特に協力会が行うという福利共済事業に会員がいかに参画し、いかなる利益を得、負担を負うか全く不明である。このことは、協力会の実体が単に一万五、〇〇〇円の出資で一六万円を取得できるねずみ講にすぎないことを示すものである。

(3) 協力会規約一二条、一三条、一四条但書が被告署長主張のとおり規定されていることは認めるが、その余は争う。

後記のとおり、設立発起人会が創立総会を代行していたし、通信総会も開かれていた。

(3) 協力会規約一二条は、「総会は会長が認めた時期に開催し、会長がこれを招集する。」と定めているが、総会への付議事項及び決議方法について何ら定めがない。このように権利能力なき社団としての最高意思決定機関である総会について手続上の定めがなく、その開催が会長の恣意に委ねられているのであるから、団体としての必須の要件を欠いているというべきである。また、協力会規約一三条は通信総会なるものを年一回開催することとしているが、これとても、同規約一四条但書において票決に関する返信がない者は議事を承認したものとみなす旨規定しており、到底総会に代わり得るものとはいえない。実際にも、協力会運営の危機的事態や会長である大次郎の死亡という重要問題が生じているのに、総会は一度も開催されていないし、また通信総会なるものさえ、満足な形では一度も開かれていない。したがつて、協力会においては、社団としての正当な総会は存在していなかつたのであつて、その運営に会員の意見は全く反映されず、会長大次郎の恣意のままとなつていたものである。

(4) 協力会規約一七条、一六条が被告署長主張のとおり定められていること、協力会規約に会長の任期、再任、役員会の審議事項が定められていることは認めるが、その余は争う。

後期のとおり、創立総会を代行した設立発起人会における決議は多数決によつたものであり、協力会の執行ないし審議機関である役員会における決議も多数決によつていた。

(4) 協力会規約一七条は、「会長は設立発起人で選出され、その他の役員は会長が委嘱する。」と定めているが、設立発起人会は団体結成の準備を行うための暫定的な集まりにすぎず、結成された団体とは別異な存在であり、団体結成とともにその機能を停止すべきものであるから、右の定めは、「協力会に次の役員をおき、会員中より選任する。」と定める同規約一六条と矛盾する結果となるうえ、協力会の総会において会長が信任を受けたといつた事実も存在しないから、会員には、会長ほかの役員を選任する機会がないことになり、役員の選任について明らかに多数決の原則が行われない結果となつている。また、協力会規約では会長の任期は一〇年で再任を妨げずと規定されているが、改選の方法についての定めがなく、実際に大次郎が死亡した後も後任の会長は選任されていない。したがつて、協力会においては、その組織において代表の方法が決定されたものではなく、適正な手続によつて会長が選任されたものともいえない。さらに協力会規約には役員会の審議事項は定められているが、役員会の招集、議事、意思決定の各手続について何らかの定めがない。

(5) 協力会規約において協力会の収支決算が通信総会の審議事項である旨規定していることは認めるが、その余は争う。

協力会においては、会長及び役員への報酬の支払については役員会がこれを承認しており、協力会の収支財産に関する経理も大次郎個人の所得とは明確に区分し正確適正に記帳されていた。また、会長はじめ役員においても、常に協力会の団体性を強く認識してその財産の管理運営にあたつていた。

(5) 協力会規約には、財産の管理に関して、協力会の収支決算が通信総会の審議事項である旨の規定が存在するのみで、他に財産の管理、保全方法や目的資産の流用、取崩しの方法、協力会の事業の遂行方法など財産管理や会の運営についての重要な事項に関する明確な規定は全く存在していない。実際にも、協力会の行つた会長である大次郎及び役員である原告への報酬の支払並びに会員施設建設基金積立金の取崩しについて総会の承認を経た事実はない。このように協力会においては、その組織において財産の管理方法が定められていたとも、財産の管理がなされていたともいえず、財産の管理処分は大次郎の恣意のままになされていたものである。

(6) 昭和四五年中協力会に対する会員の爆発的な加入申込みがあつたため、特定の時期を区切つて創立総会を開催することができなかつたことは認めるが、その余は争う。

協力会は権利能力を有する法人ではないから、設立発起人会と創立総会との明確な区分は不要であり、設立発起人会によつて創立総会を代行したものである。

(6) 以上のほか、大次郎らにおいては、協力会に対する爆発的加入申込みがあつたため、創立時の会員数の特定、正式な創立総会の開催等の手続が一切できなかつたものである。そうすれば、協力会が正式に発足していないことは明白である。

(一) 冒頭部分は争う。

3 登録手数料の帰属について

(一) 前項で述べたとおり、協力会は、その形式的手続や内容に多くの矛盾と欠缺があり、権利能力なき社団としての要件内容を有しないこと明白である。しかして、所得税法一二条(法人税法一一条)では、「収益は、これを享受する者(法人)に帰属する」旨定められているところ、以下に述べる事実に照らせば、会員から協力会に送金される登録手数料は、大次郎個人が支配管理し、同人に実質的に帰属していたことが明らかである。

(1) 争う。

協力会においては、会員が協力会の収益金の使途目的について、入会勧誘の手紙に掲げられた趣旨を知ることなく入会できない登録システムとなつており、その登録手続は極めて厳格であつたから、会員が協力会に加入を申し込み登録手数料を納めること自体、協力会の収益金の使途目的を承認し事業に参画することであり、協力会の事業に参画しない会員などというものは存在しなかつた。

(1) 協力会が登録手数料として収益した金額の使途について、事前に会員(事業に参画しない会員をいう。)の承認(一般的には事業計画及び予算)を求めた事実もなく、決算内容もJMS情報において昭和四五年度分を形式的に作成掲載したのみで、昭和四六年度分以降はこれに類することが一切行われていない。

(2) 争う。

(2) 昭和四五年一二月末において、協力会等名義の普通預金が八六八万九、五〇〇円あつたにもかかわらず、昭和四六年末では一二八万四、五一三円、昭和四七年以降は一万五、八八八円となつていて、その使途は何ら明らかにされていない。

(3) 争う。

昭和四六年以降の剰余金の取崩しについては役員会の承認を得ており、その使途も協力会の従業員の人件費等に大半が費消されたものであつて、大次郎個人が恣意的に費消した事実はない。

(3) 協力会においては、昭和四五年度分の剰余金で会員施設建設基金積立金等として六〇〇万円の勘定を設け、一種の基本財産の如く表示していたが、これについてもいつの間にか取り崩し、その残高は昭和四六年度中に雲散霧消しており、その金員が大次郎及びその一族以外の会員に給付された事実はなく、また、そもそも通常団体として極めて重要な基本財産と認められる金銭が短期間に多額に左右されているということは、正に大次郎一個人の恣意にその支配管理が委ねられていたと考える以外にない。

(二) 争う。

(二) したがつて、本項1記載の登録手数料に基づく収入金額は大次郎個人の収入であり、これから必要経費を差し引いた所得金額は同人の事業所得と認めるのが相当である。

(一) 所得税法一五五条二項が被告署長主張のとおり規定されていることは認めるが、その余は争う。

4 本件更正処分に係る理由附記の適法性について

(一) 所得税法一五五条二項は、青色申告書に係る更正をする場合には、更正通知書に理由の附記を要する旨規定しているところ、右更正の理由附記の制度は、青色申告制度において真の申告納税制度を実現するため、青色申告書提出の承認を受けた納税者に対し、更正がその備付け、記録、保存等が義務づけられている帳簿書類に基づく実額調査によらないでなされることのないよう保障している関係上、その更正にあたつて、特にそれが帳簿書類に基づいていること、あるいは帳簿書類の記載を否定できるほど信憑力のある資料によつたという処分の具体的根拠を明確にする必要に基づくものである。

(二) 争う。

青色申告書に係る更正に要求される附記理由の程度は、更正の態様の区分にかかわらず、より厳格なものであることが要請されているというべきであつて、「法的評価による更正」の場合には論理必然的に理由附記が要求されていないとの被告署長の主張は、帳簿調査に基づく更正という観点にとらわれた狭隘な主張である。また、所得税法一五五条一項但書一号、二項は、いずれも「法的評価による更正」とは何ら関係のない規定であつて、逆に右各規定によれば、同条一項但書一号に規定する事由のみに基因する更正を除くすべての青色申告書に係る更正については、「法的評価による更正」か否かにかかわらず、論理的心然的に理由附記が要求されている、と解されるところである。

(二) かかる更正の理由附記制度の趣旨からすれば、まず理由附記を必要とされる場合というのは、それを欠如しては帳簿の備付け、記録、保存の要請を無視することになり、ひいては真の申告納税制度実現の目的に反することになる場合、具体的には、本来帳簿の記載によつて証明されるべき事実、すなわち日々の営業取引の内容、結果等の客観的な会計事実の存否及び内容につき、帳簿の記載に信憑性がないとして、他の資料によりこれと異なつた認定をし、その限度で当該申告における帳簿の意義を否定して更正する場合(以下「帳簿否認による更正」という。)をいうと解すべきであり、帳簿記載はそのまま認めるが、その記載事実に対する法的評価につき納税者と見解を異にして更正する場合(以下「法的評価による更正」という。)には、法的評価はもともと帳簿記載によつてその正当性が証明されるべき性質のものではなく、帳簿の機能を超えた事柄に属するから、論理必然的に理由の附記が要求されているとは解されないのである。このことは、所得税法一五五条二項において、同条一項但書一号の場合、すなわち、帳簿書類を備え付ける等の義務ある種目の所得以外の各種所得(同法一四三条、一四八条等)の金額の計算の誤り、あるいは法令適用を誤つた居住者の申告について更正を行う場合に理由の附記を要しない旨を明らかにしていることからも解釈できるところである。

(三) 争う。

「法的評価による更正」の場合には、更正事由の範囲が限定されないため、曖昧な理由附記では、いかなる法的根拠に基づき、いかなる事実を認定し、かつ、いかなる帳簿書類を資料として更正したのか納税者に理解し難く、課税庁の恣意に流れやすいから、かえつて「帳簿否認による更正」の場合よりも個別的、具体的な理由附記を要するものと解すべきである。

(三) したがつて、仮に「法的評価による更正」について理由附記を要するとしても、その程度は、「帳簿否認による更正」における理由附記の程度とおのずから差異があつてしかるべきものであり、結論的には、課税庁の当該法的評価ないし法的判断そのものが記載されておればよく、それ以上に当該法的評価の根拠を示すとか、資料を摘示することは要しないと解すべきである。

(四) 青色申告書に係る更正に理由附記が必要とされる根拠として、被告署長主張のような見解があることは認めるが、その余は争う。

(四) なお、青色申告書に係る更正に理由附記が必要とされる根拠を、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制し、また処分理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を図る必要性に求める見解があるが、いわゆる白色申告書に係る更正に理由附記が必要とされていないことと対比すると、右のような事由は、青色申告書に係る更正に理由を附記する根拠ではなく、その結果得られる効果と解すべきものである。また、仮に右見解に従うとしても、処分庁の恣意の抑制及び相手方の便宜という側面を強調する余り、理由附記につき課税庁に過大な負担を要求することは、ひいては迅速、適正な課税の実現を阻害し、あるいは納税義務者間の課税における公平を損なう結果ともなりかねず、かかる事態は到底所得税法一五五条二項の予想し、また求めるところではないから、納税者と課税庁との間で何らの争いのない事実関係、社会通念上当然とされている事項、そして法の解釈ないし法的評価の因つて来たる過程に関する事項等については、これを附記理由として記載するまでの必要はないと解すべきである。

(五) 大次郎と被告署長との間において、登録手数料による収益の帰属について被告署長主張のとおりの見解の相違があつたことは認めるが、その余は争う。

本件更正処分は、協力会の帳簿書類の記載の信憑性を否認し、右帳簿書類が大次郎個人の事業所得にかかわるものであると認定して行われたものであるから、被告署長主張の「帳簿否認による更正」に該当する。

また、本件更正処分がなされるにあたつて、協力会が民法上の権利能力なき社団と評価されるか否かにつき法的評価がなされたとしても、右のような法的評価は司法的評価というべきものであるから、司法判断により近い形で、具体的な判断の基準と事実の認定ないし法的根拠をその附記理由に明らかにしなければならないというべきである。

(五) しかして、本件更正処分の原因は、大次郎が行つた、いわゆる「北見方式ねずみ講」の行為から生じた登録手数料による収益の帰属について、大次郎は、協力会が権利能力なき社団であるとの見解を前提に、右収益は協力会に帰属するとし大次郎の個人所得として申告しなかつたのに対し、被告署長は、協力会が権利能力なき社団に該当しないとの判断をし、これに従つて右収益は大次郎個人に帰属しその事業所得として申告を要するとし、両者の間において見解の相違を生じたことにある。したがつて、右更正原因たる事由は、前記収益に関する大次郎の帳簿書類の記載内容等を否認したものではなく、協力会が民法上の権利能力なき社団と評価されるか否かの法的評価を前提としたものであるから、本件更正処分の態様が「法的評価による更正」の場合であることは明白であるところ、請求原因三項2(一)記載の本件更正処分の附記理由からすれば、〈1〉協力会は独立課税単位たる権利能力なき社団とは評価されないこと、〈2〉したがつて、これに係る収益は大次郎個人の事業所得に帰属すると判断されること、〈3〉その結果、納税者本人である大次郎の給与は支払者と受給者と同一となるから、当然に支払給与としての経費が存在しないことになること、が明瞭に看取でき、また、専用実施権料の否認に関する理由についても、その具体性は十分であるから、本件更正処分の理由附記は、「法的評価による更正」の場合に要求される理由附記の程度としては十分なものであつて、適法というべきである。

5 争う。

5 差押公示書の瑕疵について

被告局長が徴収職員によつて昭和四七年四月二一日に本件動産を差し押さえた際の差押公示書の日付が昭和四六年四月二一日となつているのは単なる誤記であつて、これにより右差押えが違法となることはなく、まして本件更正処分が違法となることはない。仮に右の誤記が右差押えの手続に何らかの瑕疵をもたらすとしても、課税処分と滞納処分とはそれぞれ別個の法律的効果の発生を目的とする独立の処分であるから、滞納処分である右差押えの瑕疵は課税処分である本件更正処分の違法事由にはならず、また、本件において、本件更正処分は昭和四七年二月一〇日に、右差押処分は同年四月二一日にそれぞれ行われており、課税処分時に滞納処分が存在していないことは明らかであるから、後発的な滞納処分である右差押えの瑕疵によつて、課税処分である本件更正処分が違法となることもありえない。したがつて、原告の請求原因三項3記載の主張はその前提を欠き失当である。

二 被告局長の主張について

1 争う。

二 被告局長

1 差押公示書の瑕疵について

被告局長が徴収職員によつて昭和四七年四月二一日に本件動産を差し押さえた際の差押公示書の日付が昭和四六年四月二一日となつているのは単なる誤記である。右差押えは、昭和四七年四月二一日に、大次郎及び原告を立会人として執行され、同日差押調書謄本を滞納者である大次郎及び立会人である原告に交付し、大次郎に差押動産の保管を命ずるとともに、公示書により差押えを明白ならしめているから、その差押えの効力は右日に発生している。したがつて、原告の請求原因四項1記載の主張は失当である。

2 争う。

2 大次郎の個人財産差押えについて

本件更正処分は、協力会が権利能力なき社団とは認められず、したがつて、協力会の事業が会長である大次郎個人の事業と認められたことから、協力会宛に送金された登録手数料の収入を大次郎個人の所得であると認定判断のうえ大次郎に対してなされたものである。したがつて、被告局長がその滞納処分手続において、大次郎個人の財産に対して差押えを行つたことは至極当然のことであるから、原告の請求原因四項2記載の主張中、右差押えが違法であるとする主張は理由がなく失当である。

なお、原告の右主張中にある国税徴収法三条の規定は、人格のない社団等に対する課税規定が所得税法、法人税法等に設けられているのに応じて、これらの社団につき国税徴収法の適用を受けさせることを明確にする必要があるため、その適用上これら社団等を法人とみなすことにしたもので、本件のように大次郎個人に課税されたものの徴収手続について右規定を適用すべき理由はない。

3 争う。

請求原因二項1ないし3記載の各差押えは、いずれも四項記載の事由によつて違法なものであるから、徴収権の消滅時効の中断事由とはなりえないものである。

3 租税徴収権の時効消滅について

大次郎に対する本件租税の徴収権の消滅時効は、被告局長がなした請求原因二項1ないし3記載の各差押えによつて中断している。なお、差押えによる時効中断の効力は、差押えを以てなした執行の終了まで継続するものであるところ、本件の右各差押えを以てなした執行は未だ終了していないから、中断後の時効は進行していない。

三 被告両名の主張について

1 争う。

三 被告両名

1 滞納処分としての差押えによる租税徴収権の消滅時効中断の範囲について

被告局長による請求原因二項1ないし3記載の各差押手続は、本件更正処分にかかる本税及び過少申告加算税全額のほか、延滞税を含めた全額についてなされたものであるから、右各差押えによる租税徴収権の消滅時効中断の効力は右各国税の全部に及んでいる。したがつて、原告の請求原因五項1記載の主張は失当である。

2 争う。

2 純損失繰戻しによる還付請求について

純損失の繰戻しによる所得税の還付請求は、確定申告書の提出と同時になされなければならないとされており、大次郎において昭和四六年度分所得税の確定申告にあたり還付請求書を提出していないから、大次郎ないし原告は右還付請求をなしえないものである。

(証拠)〈省略〉

物件目録一、二〈省略〉

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